気まぐれ歳時記2001年11月1日
 

これが本物の「醍醐味(だいごみ)」

 歴代の天皇の名前には、実に変わったものがあります。たとえば醍醐(だいご)天皇(在位897〜930年)、後醍醐天皇(在位1318〜1339年)の名前(正確には「おくり名」と言います)に使われている「醍醐」とは、今でいう「チーズ」という意味があります。
 チーズはヨーロッパの食べ物というイメージがありますが、日本でも天皇の名前に使われるほど、古くから食べられていました。しかも醍醐天皇がいた時代よりも昔、西暦700年11月に文武天皇がチーズの一種「蘇(そ)」の製造を命じたという記録が残されています。日本では、この出来事があった月にちなみ毎年11月11日を「チーズの日」として定められています。
 もともと、チーズはアジアで生まれたと言われ、日本にも仏教の経典とともにその製法が伝えられました。仏教の経典『涅槃教(ねはんきょう)』には、牛乳から「酪(らく=練乳のこと)」を取り、酪より「蘇」を作り、蘇から「醍醐」を作ると記されています。
 この「蘇」の製法を法律として定めたのが醍醐天皇です。927年の法律「延喜式(えんぎしき)」によると、18リットルの牛乳を煮つめて1.8リットル分の蘇を作ると記しています。そして酪農家は蘇を税金の代わりに朝廷に献上することも決められています。
 つまり、当時のチーズは庶民が食べる物ではなく、天皇や朝廷の重役しか食べることはできなかったのです。
 しかし、蘇よりも高級な「醍醐」の具体的な作り方は現在のところ、わかっていません。しかし味については「乳酪・蘇の中では一番良く、その味わいは心身を楽しませてくれる」と記す書物が発見されています。最高の味覚や趣味のおもしろさを「醍醐味(だいごみ)」といいますが、こんなところから生まれた言葉なのです。醍醐天皇は、きっと醍醐の味に感動して自分のおくり名を「醍醐」と名付けたのかもしれません。
 なお、蘇の記録は後醍醐天皇の時代以降、日本史から消えてしまいます。それから江戸時代まで日本人は乳製品を製造することはおろか、牛乳を飲んだという記録はありません。
 ちなみにチーズの元祖である蘇は現在、奈良県明日香村の隣・橿原(かしはら)市の土産物として製造されています。

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