気まぐれ歳時記1999年10月1日
 

苗字

 いきなりですが、私の苗字は「菊地」といいます。今年、寄せられた年賀状の中に苗字を「菊池」と間違えて書かれたものが何通かありました。
 苗字を間違えられるのはあまり気分のいいものではありません。しかし、明治時代初頭まで、日本人の大多数の人に「苗字」はありませんでした。
 1875年、明治政府は国民全員に対し苗字をつけることを法律で義務づけました。
 実は、その5年前の1870年9月、明治政府は、これまで元武士や貴族など特権階級だけに認められていた苗字を、平民階級の人々も付けてもよいとの法律を作りました。
 しかし、日本国民の大多数を占めていた平民階級の人々は、苗字がなくても不便を感じなかったため、苗字を付ける人は、あまりいませんでした。そのため、全国民に苗字を付けることを法律で強制したのです。
 このとき、面白いエピソードがたくさん残っています。
 たとえば愛媛県のある漁村では、村民たちは魚の名前を苗字にしました。静岡県では苗字の相談で役場へ詰めかけた人々に、役場の人はお茶の銘柄を苗字にするように命じたそうです。
 ちなみに、日本で唯一、苗字を持たない家があります。それは天皇とその家族です。よく「秋篠宮」「高松宮」などと呼ばれる皇族がいますが、これは「宮号(みやごう)」と呼ばれる天皇家独特の屋号のようなもので、苗字ではありません。

気まぐれコラム目次へ菊地馨のページへ