気まぐれ歳時記1999年9月1日
 

天災は忘れた頃にやってくる

 先月、トルコで大地震が発生し、今も多くの被災者が耐乏生活を強いられています。ニュースで被災地を見る限りでは、95年の阪神・淡路大震災のビデオを見ているのか…というぐらい被災者の嘆きも、行政の対応も同じでした。日本人はこの地震を「対岸の火事」と思っていませんか?
 昨年の『防災白書』には、こんな一文が載っています。
「阪神・淡路大震災の風化が著しい」

 1923年9月1日午前11時58分。相模湾を震源とするマグニチュード7.9の関東大震災が発生し、14万人もの犠牲者を出しました。
 この教訓を忘れないため、9月1日を「防災の日」と定め、全国各地で大規模な避難訓練が行われます。
 ところで、この時期になると「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉をよく耳にします。古くからある、ことわざのように思われがちですが、この言葉が生まれたのは、関東大震災よりもあとのことでした。
 最初にこの言葉を使ったのは中谷宇吉郎という物理学者でした。しかし、この名言誕生の裏には面白いエピソードが残されています。
 1940年のある日、中谷のところに、新聞社から365日の分の名言を集めた「一日一訓」というコラム集で、9月1日の名言と解説を書いてほしいという依頼がありました。
 そこで、中谷は、関東大震災の日にちなみ、恩師である物理学者・寺田寅彦の言葉として「天災は忘れた頃にやってくる」を9月1日の名言として書きました。
 中谷は、この言葉の出所をハッキリさせるため、寺田の著書を片っ端から調べましたが、どこにも、その言葉は出てきません。
 とりあえず、その時、中谷は根拠がないまま「寺田が雑誌に書いた中の一文」という解説をつけました。
 ところが、この言葉は寺田の言葉ではなかったのです。恩師の寺田は「天災の心構え」について、日頃からよく中谷と語り合っていたらしく、そのことが中谷の頭の中で作られた「天災は忘れた頃にやってくる」を恩師の言葉であるかのように思いこませていたそうです。
 つまり他人の言葉と思っていた名言は、実は自分が考えた言葉だったわけです。言葉だけではなく、日頃から、この2人のように防災について語り合いたいもの…あなたは天災を忘れていませんか?


気まぐれコラム目次へ菊地馨のページへ