気まぐれ歳時記2000年8月1日
 

命を守る赤十字マークの秘密

 1859年、イタリア統一戦争で救護に当たったアンリー・デュナンは、戦場の負傷者を敵味方の差別なく救護するため、国際的な条約に基づく救護団体の必要性を、著書「ソルフェリーノの思い出」の中で説きました。
 それから4年後、この本を読んだスイスのジュネーブ市民らが、デュナンの考えに賛同、ヨーロッパの16か国に対して救護団体の設立と、そのための国際条約を結ぶように呼びかけました。
 1864年8月22日、スイス政府が提案国となり、12か国が「戦地軍隊における傷者及び病者の状態改善に関する条約」(1864年ジュネーブ条約)を締結します。
 「赤十字国際委員会」の誕生です。
 同時に提案国のスイスの国旗(赤地に白い十字)にちなんで、白地に赤い十字の赤十字マークが作られました。
 このような設立の経緯から、赤十字マークをつけた施設や船などは、どこの国も攻撃してはならないとされています。
 その象徴的出来事として思い浮かぶのは1996年のペルー日本大使公邸人質事件でしょう。
 ゲリラが立てこもる公邸に、赤十字のゼッケンをつけた人が自由に出入りする様子は、テレビで何度も映し出されました。
 無法者のゲリラでさえ、赤十字を攻撃したり、赤十字のマークをつけた人を人質にとることはできないのです。
 ところで、この赤十字マーク。世界共通かと思えば、そうではありません。
 イスラム教国では、十字はキリスト教の十字架を連想させるため、赤十字マークの代わりにイスラム教の象徴である赤い月のマーク(正確には「赤新月」)が使われています。これらの国では名称も「赤十字社」ではなく「赤新月社」というそうです。
 ヨーロッパの12か国で始まった赤十字運動は、今では、国家体制や宗教を超え、全世界185か国に広がりました。

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