血液型騒動

私は自己紹介で自分の血液型をB型だと紹介している。これは神戸の実家にいるときに見せてもらった自分の母子手帳の血液型欄に「B型」と書いてあったのを見たからだ。

ところで昨日、N産婦人科を揺るがす大事件が起きた。なんとB型の夫=すなわち私とO型の妻の間に生まれた娘の血液型が「A型」であることがわかった。娘は生まれた直後、取り上げてくれた先生や看護婦、そして妻の両親やきょうだいからも「父親似」と"お墨付き"を頂いたにも関わらず、私と娘の血はつながっていなかったのだ!!

驚いたのは妻である。この事実が告げられた直後、私に「すぐに産婦人科に来てほしい」と電話をかけてきた。これまでの経緯を聞いた私はタクシーで産婦人科へ急行するのだが、タクシーに乗り込むと、運転手は「お子様が生まれるんですか?」と呑気に尋ねて来た。

「いや、すでに生まれているんですけどね、ははは」

事実は言えず、乾いた笑いでごまかしたのだが、産婦人科に着くやいなや運転手は「おめでとうございます」と追い打ちをかけてくるではないか。私は心の中で「産婦人科で修羅場が待ってるかも...」とつぶやいた。通常、赤ちゃんは出産直後、へその緒から採血するらしいが、この日、病院では間違いがあってはいけないと、私が病院に着く前に、看護士が娘の腕から再度、採血を行ったそうだ。しかし失敗したという。娘を可哀想に思った妻は、娘よりも夫の採血をしてほしいと看護婦に訴えた。そして私が産婦人科に呼び出されることになったのだ。

単なる採血とは言え、病院内では医療行為である。看護士に「保険証は持っているか」とか「問診票を書いてほしい」などと言われる。しかし産婦人科の問診票には名前、生年月日、満年齢などのほかに「最終月経」「出産経験」「過去の分娩方法」などという項目がある。名前は「カオル」でも男なので、あるはずがない。そんなこんなで私は採血に臨んだ。注目の血液型は夜に判明するという。その後、病室でこれまでの話を妻から聞く。私よりも妻が動転しているようだった。

「疑われるようなことはない」

私は、出産にも立ち会ったし、切迫流産で苦しんでいた時も妻やお腹の中の子供と一緒に乗り切ってきたという自負もあるので、この結果が事実としても、妻を責めるつもりはなかった。そして、夜。衝撃的事実が発覚する。なんと私の血液型はB型ではなくA型であることが判明したのだ。娘とも血がつながっていたことも証明されたことになる。

しかし、これまで何十人という人間から与えられた"典型的B型人間"の称号は何だったのか? 私自身、血液型性格判断をはじめ占いのたぐいはまったく信じないので、そんなことは気にならないのだが、私の血液型の勘違いによって生後3日の娘を採血失敗でキズモノにしてしまった私の責任は重大である。

この翌日、すなわち今日、私の両親が初孫の顔を見に神戸からやってきた。このとき、初めて両親の血液型を訪ねた。すると父はA型、母はO型だった。過去に見た母子手帳の血液型欄にあった「B型」は何だったのだろうか。私の空見だったのだろうか?

以来、私は娘の面会で病院へ行くと、この騒動の場にいなかった看護婦からも「A型のご主人」と呼ばれるようになったことは書くまでもない。